福祉住環境に向けたインテリアデザインの提案
ICS College of ARTSのインテリアデザイン科では、これからの少子高齢化社会に向けて社会福祉とインテリアデザインについて考えてゆく活動として、以前より専門課程のカリキュラムの中に福祉施設のデザイン課題を取り込むことを計画してきました。 デザイン業界全体を見回しても、高齢化社会を意識したユニバーサルデザインを積極的に採用する動きが加速度を増しており、デザイナーを志すものなら常にそれを意識できるようにならなければならない世の中になってきているので、教育的観点から考えても、デザイナーを育てる学校として社会福祉を意識した課題に取り組む機会を与えることは大変重要であると言えます。
今年度は社会福祉法人善光会の皆様にご協力頂くことで、報道メディアや書籍・インターネットなどを通じて得られる第三者からの社会福祉の現況および将来の見通しだけでなく、福祉の現場から見えるリアルな視点を盛り込んだデザイン課題を実施することができました。 先日、インテリアデザイン科2学年後期デザイン課題として無事に終了しましたので、課題説明、授業の風景、最終プレゼンテーションの様子を交えて紹介したいと思います。
課題説明は今回の課題の対象空間となる福祉総合施設サンタフェガーデンヒルズ内で実施されました。まずは善光会のスタッフの皆様のご紹介と、施設概要などの説明がありました。 デザイン課題では施設の現状のリサーチと問題点の抽出を行った上で、各自が対象空間を設定しそのインテリアデザインを行います。空間系選択ではインテリアエレメントの配置を含めた全体計画を行い、家具系選択では施設内で使用する家具の原寸モックアップまでを実作することになります。
課題説明の後は、施設内の見学をさせて頂きました。屋上庭園からは羽田空港が一望できます。ここは家族や地域の方々も参加してのレクリエーションが頻繁に行われるそうです。
老人保健施設の中に設置されている機能訓練室です。ここでは日中にリハビリテーションのサービスがおこなわれていますので、運動器具が置かれています。学生達も普段は見慣れない空間なので、興味津々にスケッチをしたりメモをとったりと真剣です。
一階にあるデイサービス専用のレクリエーションスペースです。デイサービスがエントランスに直結していて、送迎のしやすさ等に配慮されていることなど、なるほどと頷く場面が多かったです。一緒に見学されたデザイン担当の先生にとっても勉強になる部分が多かったようです。
施設見学が終わってから、その内容を分析した上で各自でコンセプトを決定し、デザインエスキスに移ります。デザインの授業は通常のチュートリアル形式の授業に加えて、今回は特別に善光会のスタッフの皆様にも数回に渡って授業に参加して頂きました。いわばクライアントが一緒に参加しながらもの作りを進めて行く、ワークショップのような機会を沢山頂く事ができました。
通常のデザイン的な視点からの指導に加えて、クライアントとの積極的な意見交換を行う事で、今回のデザイン提案はよりリアリティを増した形に進化させる事ができました。学生は緊張しながらも自分の思いをクライアントにぶつけてみるという、良い練習ができていたように思います。
五週間の課題の最後の締めくくりは現地でのプレゼンテーションを開催しました。施設の一階にあるエントランスホールで一人一人が作品の発表を行います。
プレゼンテーションはスクリーンに各々が作成したスライドショーを表示しながら行います。このスライドショーの出来映えも、作品の内容を上手く伝えるために重要です。また、通常のプレゼンテーションと同じように、作成した図面と模型を組み合わせながら持ち時間を有効に使って発表して行きました。
作品の発表が終わってから、グループごとに講評を頂きました。講評を受ける学生は作成したプレゼンテーションパネルを持ちながら、緊張した顔つきでコメントを聞いています。
作品の講評は善光会のスタッフの皆様に加えて、担当された先生からのフォローアップコメントがありました。デザイン課題はプロセスでの評価がとても重要であり、五週間という長い期間に渡って一つの作品を共に仕上げてきたデザインチューターの先生からの次へと繋がるメッセージが、学生達が成長して行く上ではとても大事だなと実感します。
この課題を継続して実施することで、これからの社会をデザイナーとして支えてゆくことになる学生達に対して「福祉」を意識させ、より多くの人たちが「安心・安全」な暮らしを実現できるよう、より良いユニバーサルデザインが生み出されるきっかけが与えられれば嬉しく思います。 また、福祉機関と教育機関がコラボレーションする事で、少子高齢化社会に対応するための新たな方向性を模索する良い機会が持てており、この試みがインテリアデザイン業界における住福祉環境に対する取り組みを変えるものになればと感じています。
インテリアデザイン科2学年担当:戸國 義直