学校案内卒業生インタビュー

卒業生インタビュー

Title of a work
こころと手で思考する

河埜智子 & 岡 美里

Graduate's Interview
01

アラキ+ササキアーキテクツ
(A+Sa | Araki+Sasaki architects)

河埜智子 & 岡 美里
Kawano Tomoko & Oka Misato

多用性と多様性のなかで学ぶ

ICS
お二人はどうしてICSに入学されたのですか?
高校卒業後は四年制大学の歴史学科に進学していたのですが、大学の授業の一貫で昔の建築物について調べたり、建築を学んでいた友人の製作を手伝ったりするうちに、モノづくりへの興味が湧いてきて大学を辞めたんです。もともと方向性に迷いつつ大学に進んでいたこともあって、友人と開催したイベントで読書机を手作りした時に自分の中にうれしい気持ちが湧き起こるのを感じて、モノづくりなら自分が積極的にできそうだと思って。そこからインテリアを学べて、なおかつ自分で作ることができる場所をということでICSのインテリアマイスター科に入学しました。
河埜
私は、専門学校への進学を考える時に何が向いているのだろうと振り返って、そういえば模様替えが好きだし、手を動かして作ることも好きだから「それならインテリアデザイン?」という気持ちでした。それでインテリアデコレーション科へ。
ICS
入学前と入学後にギャップはありましたか?
入学時はマイスター=家具職人のイメージで、主に家具施工の技術だけを学ぶと思っていたので、授業内容の幅広さに驚きました。建築設計、内装技術や施工管理を現場研修といった大工さん的、現場監督的なことも学ぶし、さらにデザインの勉強もさせられて…させられると言うとあれですけど(笑)、街の建物をスケッチする授業があったりして。自分の想像より広い世界に触れることで、思わぬ自分の得意分野を見つけたりと発見がありました。
河埜
私の場合も、インテリアデコレーション=モノとモノの組み合わせ方を学ぶと思っていたのですが、実際は家の設計図を引いたり、ディスプレイのデザインを起こしたりと実に内容が多彩でした。デザインをゼロから考えるなんて無理だと思っていましたが、やってみると「意外と好きかも」とか気づいて、体験するって大事だと思いました。
ICS
学ぶ対象を幅広く捉えて、かつ理論と技術両面から学ぶのはICSならではかもしれませんね。
河埜
あと、印象的だったのは同級生の多様性です。同級生には他国からの留学生もたくさんいますし、うんと年上の人がいたり、びっくりするような突飛な服装の人がいたり(笑)。今までの自分だときっと知り合えなかった人と友達になれたのは得がたいことで、結局はみんな好きなモノ、興味の対象が同じ人達が集まっているから、人のタイプとか年齢とか国籍とかを超えて親しくなれました。

現実は常に想像を超えていく

01/多用性と多様性のなかで学ぶ

ICS
卒業年度はちがいますが、お二人とも設計事務所のアラキ+ササキアーキテクツ(以下、A+Sa)へ入られて。どういうお仕事を手がけられているんですか?
うちは新築やリノベーションを手がける建築設計事務所なのですが、いわゆる図面を書く設計業務だけではなくて、家やお店という形にしていく施工、その空間に置く家具の製作までも手がける立体的な提案が特長です。その中で私は、主に家具や内装で実際に手を動かす製作を担当しており、他に施工管理、家具のデザインも手がけます。
河埜
私は主にインテリアや建築物、空間のデザインを手がける設計担当です。
二人で組んで仕事をすることもあって、直近では一戸建てのリノベーション案件で、その家に置く家具を河埜がデザインして、私が実際に形にしていきました。
ICS
立体的な提案とともに、A+Saの大きな特長として「デザインを頭で考えるだけではなく、実際に手を動かして手でも考えることを大事にしている」ということがあります。その言葉どおりオフィス内にも立派な工房がありますが、「作る場所」がすぐ横にあることはお仕事に影響はありますか?
河埜
大きくあります。他の設計事務所でも模型を使っての検討はされていると思うのですが、うちの工房は家具を原寸大で作れるほどの広さがあるので、頭で考えたデザインが現実化できるかを検証できますし、逆に手を動かしながらデザインを発想することもできます。現場で職人さんに図面を見せて「できない」と言われた時も、自分達で試してできたら「こうすればできると思うんです」と話し合うことができます。
過去にないデザインの家具の製作は、経験や知識があっても未知数の部分が多くあって、手を動かしてみないとわからないことがたくさんあるんです。今回の案件で作った家具でも、工房が大活躍でした。

02/現実は常に想像を超えていく

河埜
物件の最大の見せ場は、モザイク石貼りの出窓です。家に入った瞬間に視線が気持ちよく抜け、出窓から反射した柔らかい光が天井面を照らし、北側まで明るい居住空間をつくりだしています。光が主役のその空間に天然木の机を置くことになったのですが、せっかくなので机にも何か光を活かせないかと。それで、窓からの光が机を通り抜けるようなデザインを考え出したんです。一般の四本足テーブルは天板下の四方に幕板という部位を設けて強度を担保するのですが、その幕板に隙間をあけてはどうだろう、と。
ところが構造的に考えると強度が弱くなる懸念があって、実際、デザインの段階で外部の家具職人さんに相談したところデザイン的に納得のいかない修正を加える必要がでてきてしまいました。施工前に一度社内で試作品を作って検証をしようとなりました。
河埜
工房でかなり試行錯誤しましたよね。
色々な工夫をこらしてもやはり四方に隙間を開けると強度が弱くて机がいずれ保たなくなる。それでもやっぱりこの光を通したデザインを実現したい…その結果、四方ではなく、正面から見える二方にしぼって隙間を開けば、光の抜けも強度もクリアーできるということがわかって、思った通りの物が完成しました。

02/現実は常に想像を超えていく

ICS
お写真(右図)を拝見すると隙間から広がる光がとても美しいです。この光があるのと無いのでは空間のクオリティに段違いの差が生まれますね。
河埜
ありがとうございます。私達もこれほどまでに光が映えると思っていなかったので、現場に置いた時に「よし」と(笑)。
ICS
製作を諦めなかったから出会えた奇跡ですね(笑)。手を動かして製作していくうちに、頭の中よりも良い物ができることはよくあるのですか?
河埜
すべてがそうかもしれません。やってみないとわからないことだらけです。
建築現場では塗料を色番号で指定するのですが、実際の素材に重ねると思った色が出ないことがよくあります。
河埜
建築現場は生き物の部分があって、想像と現実がちがうことの連続です。だからこそ、工房で自分の手を動かして、現場に出る前に細かな形や素材感までリアルに検討できるのがうちの強みなんだと思います。
前例や常識より、スタッフ自身の体感や五感を大事にする社風ですね。世の中の全てを建築材料として捉えるような柔軟さがあって、まったく建築業界と関係ない素材やアイディアもなんとか応用できないかとみんなで考えを出し合ったり、新しいサンプルを作ったり。そういう日常の繰り返しが思わぬ場面で生きてきて、新しい空間づくりに繋がるんですよね。

未来へのパスポートを手に入れる

03/未来へのパスポートを手に入れる

ICS
頭だけじゃなく手と心も大事にする、A+Saの方針は、ICSの哲学とも相通じるところがあります。学生時代の体験が現在に通じていることはありますか?
先にも述べたのですがICSでの学びは幅広いんです。ほぞ組などの木工をやる一方で、石膏ボードを張ることもします。理論を学ぶ授業もあれば、実際の施工体験もできるし、デザインもさせられる(笑)。正直にいうと入学当初は、たとえば木工技術なら木工技術といった風に一分野を職人的に極めたいと感じた時期もあったのですが、今わかるのは逆に広く学べたことが一番良かったということ。実際に仕事をするといろんな状況に出くわすのですが、振り返ると学生時代に培った知識や体験に何かしらのヒントが必ず見つかります。
ICS
自分の引出しに知らぬ間に色々なものが入っていて、その道具を応用して現在の課題を乗り越えていくというわけですね。「知っている、やったことがある」と「知らない、やったことがない」には雲泥の差がありますから。
河埜
私も「インテリアコーディネートが好き」ぐらいの感覚で入ってきたのですが、インテリアのデザインから建築まで学べた結果、自分の中の新しい可能性に気づくことができました。普通の学校だとインテリア系、建築系と卒業後の進路を分けて考えることが多いのかもしれませんが、「両方に携われる場所で働きたい」と良い意味で欲が芽生えたのはICSで学んだおかげだと思います。
ICSは、学生の人生にとっていわば大きな入り口なのではないでしょうか。各分野を幅広く学べるからそれだけ出口の選択肢が多く与えられる、つまり将来的に進む道の可能性を広げられるのだと思います。そんな環境の中にいるから自分に合う道、自分の進む道を見極めやすいですし、万が一、自分が選んだ分野で働き出して合わないとなっても基礎があるから別分野への転向もしやすい。自分の人生にいつの間にかいくつもの選択肢ができているって幸せなことだと、社会で働くとあらためて感じますね。

Title of a work
デザイナーとして独立すること

上川 聡 & 茨田督大

Graduate's Interview
02

upsetters architects
上川 聡 & 茨田督大
Kamikawa Satoshi & Harada Tokuhiro

行動したから見えたもの

ICS
お二人は ICS 時代から一緒に活動されていて、在学中から設計の仕事を引き受けていたそうですね。
茨田
2年生の終わり頃だったと思いますが、僕が知人から個人的に仕事を頼まれたことがあって、その時に上川と、もうひとり同じ学科の友人の二人に声をかけたのが最初でした。学生の身とはいえ仕事ということで、自分一人が考えてやるより、複数で意見を出し合ってやる方が良い仕事になるだろう、と考えたからです。
上川
その案件をスタートに、その後も店舗の改修、マンションのリノベーション、美術館のエントランスの改修と、いろいろと手がけさせてもらいました。仕事といっても、依頼する側も僕たちをプロと見込んで…というより、学生さんにやらせてあげようと考えてくれたんじゃないでしょうか。実績は何もないのに、事あるごとに「何かをやりたい」と言っていたものですから、「こういうの、やってみる?」と声をかけてもらうような感じで。今から思うと何も知らない若造によく依頼してくれたと思います(笑)。

01/行動したから見えたもの

ICS
自分達から積極的に周囲に働きかけていたのはどうしてですか?
茨田
僕たちは二人とも大学卒業後に ICS に入学したので、「デザイン行為を仕事にする」という意味を、他の学生より少しだけ現実感をもって考えられたというのがあるかもしれません。
上川
高校を卒業したばかりの同期もいるなか、入学時の年齢が僕が23歳、茨田が25歳ですから気持ちの差は当然大きいですよね。通常なら社会に出ているわけで、学校の勉強にしても個人的に引き受ける仕事にしても、しっかりやりきるぞという意識は自然と芽生えていましたね。

01/行動したから見えたもの

ICS
お二人のように大学を卒業した人、もしくは社会人経験をしてから入学する人が多いので、それが下の世代の刺激となって相互的に成長していく校風がありますね。みんなより、ちょっと大人だったからこそ仕事に積極的になった、と。仕事をすればお金のこと、顧客とのやり取りといった社会のリアルに接するわけですが、うまくいったのですか?
茨田
いえいえ、社会的な知識や経験がないから、経費も十分にペイできないようなこともありました(笑)。「やばい、俺たち社会のことを何も知らないぞ」と危機感のようなものを肌で感じました。
上川
だから卒業後は、別の学校で同じく建築を学んでいた岡部を加えて、三人での活動を続けつつ、その一方であえて就職をしたんです。独立時の活動がより有意義になるよう、仕事のノウハウや社会の仕組みを学ぶために。僕は約2年半、設計事務所で働きました。
茨田
僕は卒業して一年はフリーランスとして活動したのですが、やっぱり知識・経験の未熟さを思い知って不動産系の会社へ。不動産業界を選んだのは不動産の知識がほしかったこともあるし、何より発注者側の考え方、意識を学ぶためです。建築家やデザイナーは基本的に受注側で、川の流れでいうと上流に発注企業がいるわけだから内情を知っておくのは、いずれ独立する時に必ず役立つはずだ、と。
上川
卒業の1年後には「有限会社upsetters(アップセッターズ)」として法人化してましたから、20~21時頃まで普通に働いて、その後に三人で借りた蒲田のオフィスに移動してアップセッターズとして引き受けた仕事をやるような毎日で。その活動はいわば “夜の仕事 ”でした(笑)。
ICS
夜の仕事(笑)。
茨田
僕の夜の仕事歴は5年間程だったかな(笑)。
上川
両立はもちろん大変なんですけど、大変以上に見出せる価値があるというか、昼間に学んだことを、夜に自分達が本来やりたいことに活かしていました。
ICS
普通は卒業後にまずどこかで働いて、数年経ってからようやく独立を考え始めると思うのですが、お二人の場合は最初から独立のための就職だったのですね。
茨田
そのぶん、早く独立まで辿りつけたかな。法人化し、本格的に三人全員がアップセッターズ一本でやっていくことになったのが20代後半の頃。当時は業界にインターネットやCAD(設計用ソフト)の浸透によって、それ以前より仕事のチャンスや職能としての領域が広がり、若手と呼ばれる世代が続々事務所を立ち上げるような機運が高まっていて、そんな時代に後押しされて「僕らもいけるんじゃないか?」と(笑)。

クライアントはパートナー

ICS
独立した組織として活動するには、どのような心がけをされてきたのですか?もちろん「良いデザインを生む」というのは大原則だと思いますが。
茨田
大きくふたつあるのですが、まず「一般の会社としてきちんと成立している」ということ。ビジネスに必要な契約や法律、経理の知識を身につけるとか、あとは給与体系や福利厚生といった社内的な環境を整えるとか。当たり前といえば当たり前なんですけれど、デザイナーだから、専門外だからとルーズにするのではなく、しっかりやらなくてはいけないと考えました。
上川
三人という人数も鍵ですね。意見の幅が広がりますし、多数決で冷静に物事が考えられますから。意識的に役割もわけていて、茨田は経営、僕は全プロジェクトの進行管理、もうひとりの岡部はデザイン統括を担当と、より効率的に組織運営できるようにしています。僕たちの会社は決して大きくないスモールチームですけど、組織としてしっかりしたいという考えは立ち上げ時から徹底するようにしています。

02/クライアントはパートナー

ICS
創造力とともに現実力も必要だということですね。もうひとつのポイントは
茨田
「パートナーとしてクライアントと仕事をすること」。僕たちの仕事は一般的に「こういう空間・建物を作ってほしい」との依頼から始まるわけですが、僕らはそもそもそれを作る必要があるか、ということから考えたいんです。「今、必要なことは本当に建築ですか?」と。デザイン的に優れたものを作るだけで解決できるならいいけど、根本から考えないと本当の解決にはならない場合も多いんです。企業がクライアントの場合は特に。その企業が今ぶつかっている壁は何か、今後どのような計画をもっているのか、将来どうなっていくのか。総合的に考えて、建築以外の改善が必要となれば、戦略やそのプロセスについてこちらから提案することがあります。
上川
必要なのは空間ではなく、まずはコンテンツとなる商品ではないでしょうか、とか。なんとなくで空間を作っても結局はうまく運営できないから、「継続できる空間」を一緒に創りあげていきたいんです。作り手とクライアントが同じ気持ちをもって。
ICS
必要ならクライアントに「NO」を言ってアイディアを提案する、コンサルタント的な役割を果たすんですね。過去のお仕事を拝見すると、企業のブランディングから商品開発、イベントプロデュースと実に多彩なのもその結果でしょうか。
上川
自然と分野を横断していくことが多いです。必要に応じて各分野のプロにも協力をあおぐので、より幅広く提案できるというのもあるでしょうね。そこからクライアントと話し合いを重ねることでアイディアが膨らむことも多いですし、時には「新しい分野の事業を立ち上げよう」という結論にいたることすらあるわけで。
ICS
建築業界では、クライアントが一社に設計を依頼することもあれば、数社に案を競わせてその中で優れた一社に仕事を発注するいわゆる「コンペスタイル」も多いですが、そういう場合はどうするのですか?
上川
:僕たちはおこがましいかもしれないですがコンペには基本的に参加しないことにしています。なぜなら与えられた条件の中でしか提案ができないものだから。
ICS
競争するなら勝たなければならないし、勝つためにはただ条件を満たしただけの提案をせざるを得ない。そんなジレンマがありますもんね。
茨田:勝つための提案が果たしてお客さんのためになるか、と考えると疑問に思ってしまうので。それで某大手検索サイトからコンペのお声がかかった時も「そもそもコンペをしない方が良いので は?」とか言って決裂したりして(笑)。
上川
(笑)。でも、クライアントと思いや理念を共有することは常に大事に考えています。
ICS
依頼をただ消化するのではなく、新しい視点で種をまき、クライアントと一緒に育てていく。そういう建築事務所は珍しいですよね。
茨田
:建築家やデザイナーはそういうコンサルティングができる仕事だし、またそうすべきだと思います。自分達だってそうした方が絶対に楽しいはずです。

必要なのは社会へのアクセス

03/必要なのは社会へのアクセス

ICS
独自のスタイルで活躍されているお二人ですが、ICS時代の学びが今のご自身につながっている点はありますか?
茨田
ちょっと大げさだけどICSは僕たちの出発点。机の上の勉強だけじゃなく、体験的な学びも多かったし、様々な経験を通して自分の得意なこと不得意なこととか、将来こうなりたいとか。自分の輪郭を知れた時間だったと思います。それに、ICSは面白い先生、人間的に魅力的な先生が多いですよね。
上川
今もそうだと思いますが、「デザインは現役の人に教えてもらう」というのが ICSの学校としてのポリシー。ご自身も建築家やデザイナーとして活躍されている方ばかりなので、学校で過ごす時間が非常に刺激的でした。先生の会社でインターンシップとして5週間働いたのも良い経験だったな。いやでも目的意識や自分の未来を考えざるを得ないですから。
茨田
こっぴどく叱られて、社会の厳しさを知ったりね(笑)。
上川
それは愛情の裏返し(笑)。僕たちは今、インターンシップを受け入れる側の立場だけど、普通のアルバイトの子よりは、やっぱり真剣に向き合ってしまいます。せっかく学生時代の貴重な時間を使ってきてくれるのだから、何かその子にとって役立つ時間にしたいと思ってしまうんです。
茨田
あと働き出してから気づいたのは、ICSの人脈は財産だということ。同じ学生時代を過ごした同期や先輩、後輩はもちろん、業界の中に ICSの卒業生は多くて一緒に仕事をしたり、助けてもらうことも多々。いわゆる業界のトップランナー、注目株の人の中にもゴロゴロいて「あなたもICSの卒業生だったのですね!」みたいな(笑)。だから卒業生と現役の学生を、うまく繋ぐネットワークができれば化学反応が生まれて、ICSにさらに面白い展開が生まれるんじゃないかと期待しています。
上川
自分達を振り返っても、学生時代に外部と接する機会をもてたことは、非常に貴重な体験でした。学校の体制としても、学生一人ひとりの意識としても、どんどんチャレンジする気持ちでいてほしいですね。やってみないとわからないことって多いし、フットワークを軽くしていれば思わぬ面白いことに出会えるものです。興味をもったことはあまり難しく考えずにまずはチャレンジしてほしいと思います。

02/クライアントはパートナー

Title of a work
デザインと共に生きること

岩倉榮利

Graduate's Interview
03

岩倉榮利造形開発研究所
岩倉榮利
Iwakura Eiri

人間はいつからでも出発できる

ICS
ICSの前身であるインテリアセンタースクールをご卒業されて以来、40年以上にわたってデザイン業界の第一線にいらっしゃいますが、どのような経緯でデザイン業界を志されたのですか。
岩倉
美術が好きだったものの、デザインの仕事が一般的ではない時代だったから、とりあえず工学系の大学へ進んだのですがやはり肌に合わなくて、もやもやした毎日を過ごしていました。そんな時に祖母のはからいで郡山デザインセンター代表の小泉庄吉先生に出会いまして、思わず大学を放り出して先生に師事してしまったんです。「生活の中から生まれるデザインが美しい。生活すべてをデザインできなくてはならない」という信念の小泉先生は、今日ファッションショーをしたかと思えば翌日は工芸デザインを行うようなユニークな人で、建築からアート、芸術、演劇まで手がけるようなマルチな活動ぶり。僕も無我夢中で2年間その渦の中にいました。
ICS
そこからどうしてインテリアセンタースクール(ICS)へご入学を?
岩倉
専門的な知識もないながら、実践的にデザインワークをしていたわけですが、そんな僕に先生がきちんとテクニックを学んでこいとおっしゃられて。僕も自分の骨格となるものを見つけたかったのでここへ入学したわけだけど、当時インテリア教育を受けられる場所はこの学校ともう一つぐらいしかなかった。そしてICSの方が学費が安かった。でも入ってみると同級生には美大出身だったり、大学の工芸科を出ていたりする優秀な奴がごろごろいるわけ。こちらは正式な図面なんて引いたことないから最初の頃は成績は思いっきり、ビリグループでした(笑)。でも面白いものでテクニックのない僕らのほうがデザイン的にはだんだん面白いものを出していき始めるんですよ、時間が経つにつれ。どうせテクニックじゃ勝てないから面白いものを出そうとアイディアの方に力を傾けるからなんですね。要は中身、つまりアイディアこそが勝負だと気づいたのは学生時代です。

02/人との出会いが作品を変える

ICS
テクニックだけが先行すると、ある程度美しく簡単にまとめられてしまうから、アイディア自体で人を驚かせるような工夫をしなくなると。それは現代にも通じることかもしれませんね。
岩倉
デザインセンスというものは、生まれもった感覚と思いがちなんですが、僕の実感としては後から磨くことができるものなのではないでしょうか。だから最初は同級生のほうが進んでいるように見えても、本当の意味ではみんな同じスタートラインに立っているのだと思います。
ICS
では、個人によって成長の度合いに差が出るのはどうしてでしょうか。
岩倉
デザインというのは作り手の「心」がすべて。学ぶために知識をかき集めるのではなくて、自分のおこなっていることを心底楽しむ人のほうが伸びるのではないでしょうか。みなさんもご自身で経験があると思いますが、本当に学びたいと思わないかぎり、人間は知識でも技術でも身につかないものですよ。さらっと流れてしまう。
ICS
100のことを教えられるよりもたとえ1でも自分からつかみ取りにいった方が深く身につきます、たしかに。
岩倉
僕も経験を積むとともに会社のスタッフや若い世代に教える機会が増えたけれど、こうしろ、あぁしろというのではなくあくまで自分の体験談を話すだけで、後はその人がどう考えるか、どう行動するかが大事だと思っています。だってその人が自分の心で考えてデザインにオリジナリティを出せないと、誰かの真似したって意味がないんだから。こんなこと言うと学校に怒られるかもしれないけれど、現時点で何かしら採点されて悪かったとしても小さな話で気にすることないですよ(笑)。何かの拍子で心に火がついて、それは人との出会いであることが多いと思うんだけど、学ぼうという気持ちが内側から湧きおこった時が本当の意味でスタートの時。それは18歳の人だって60歳の人だって同じこと。

人との出会いが作品を変える

ICS
33歳で独立して「ROCKSTONE」というブランドを皮切りに、今までに6つのブランドを立ち上げていらっしゃいますが、そのエネルギーはどこから湧くのですか?
岩倉
おおよそ6、7年にひとつのブランドをスタートさせているわけですが、生きることは変わること、その時その時にやりたいことと向き合って突き詰めた結果の自然な流れです。アルミや鉄といった金属のクールな無機質感を主題にしたものがあれば、逆に「木」と職人の技巧を主役にしたシリーズもあり、かと思えば江戸の家具職人とのコラボレーションをしたブランドもあります。
ICS
同じ方がデザインしていると思えない多様さです。それだけご自身の中で無数の変化が起こった証しかと思いますが、変化するきっかけはあるのですか?
岩倉
やはり人との出会いでしょうね。人生の要所要所には必ず大事な出会いがあって、そこから新しい道が始まります。たとえば独立した当初、伝統的な木工や家具の温かみといったものに反発心すら抱いていたのですが、その後バブルが弾けてどん底の時に、偶然に飛騨の木工職人に出会うんです。それまでの僕はデザインを寸分まできっちりと図面を引くタイプで1ミリでもデザインどおりにならないと嫌だった。でも、その木工職人は精度を8割程度に修めたラフスケッチ、「原寸絵図面」といいますが、そのスケッチで作らせてくれ、スケッチの雰囲気に近づける工程は自分の腕に任せてくれというわけ。ものは試しに委ねてみたら、彼らが14、5歳から腕を磨いた名人の腕に任せたことで、僕の想像を超える素晴らしい物が出来あがってくるわけ。びっくりしてそれから木に魅せられ、人に任せるという選択肢の良さに開眼しましたね。そんなふとした出会いから新しいアイディアが湧きおこってくるんですよ。

ネクストデザインを求めつづけて

ICS
岩倉先生からはデザインと常に真剣勝負で向きあうという、学生時代から変わらない決意を感じます。
岩倉
常に胸にはやりたいこと、新しい構想、を描き続けていますよ。合言葉は「ネクストデザイン!」。よくデザイン論のなかで第一は自然の美、第二は芸術の美、第三は用の美、と言われますが、僕はそこに続く第四の美を自分なりに考えたいと思っていて、きっとそれは心の美、生き方の美じゃないだろうか。そう思っているんだけど、それが正しい答えかはまだわかりません、これからも探し続けます。
ICS
よろしければ構想中のネクストデザインをひとつお聞かせいただけませんか。
岩倉
子どもが巣立って夫婦二人になったので、その愛の巣を(笑)。テーマは「大地に住まう」ふたりでなんでもやれる家。外観は他人の視線をカットする窓の見えない空間構成で、屋上には自給自足用の畑と自家発電用ソーラーパネルをあしらい、中は一転して空間のほとんどをオープンに繋いで開放的に。この空間でふたりの生活が完結することに挑戦する、実験的な家を考えています。女房の説得はこれからだけど(笑)、アイディアを練っていると実にワクワクします。
ICS
構造や空間はもちろん、生活にどう向き合うか、家族とどう接するか。そんな考え方からまるごとデザインしてしまうというわけですね。
岩倉
僕は家具デザイナーとかブランドデザイナーと言われるけれど、それは僕という人間の一面に光を当てただけだと思っていて、建築、インテリア、グラフィック、ブランド……いわゆる「デザイン職」といわれるすべては根っこの所で相通じていると思っているんですよ。デザインで何かを解決すること、人の気持ちを中心に置くという根本原則は同じで、あとは表現手法が少し異なるだけで。
ICS
おっしゃるとおりで、私達も学校ではテクニックや理論だけじゃなくて、その人の核となるデザインに対する考え方を学生に身につけてほしいと考えています。
岩倉
自分が生み出したものに最後まで責任をもつ、そんなプロの矜持もできれば学んでほしいですね。僕も振り返ると人生で最も勉強したのも、生涯の友に出会ったのも、自分流のデザイン論を考え始めたのもすべて在学中でした。みなさんもたくさんの失敗や経験、出会いを繰り返して、誰の真似でもない自分のデザイン、スタイルをつかみ取ってほしいです。